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2023年度卒業式 学校長 式辞

2023年度卒業式 学校長 式辞

今日ここに大阪病院附属看護専門学校を卒業される10期生38名皆さん、ご卒業誠におめでとうございます。大阪病院並びに看護専門学校を代表し、心よりお祝い申し上げます。また、皆さんをこれまで育て、励まし、支えてくださった、ご家族ご親族の皆様方にも、この場をかりて心からのお祝いと感謝を申し上げます。

10期生は、私が大阪病院に赴任し医療概論を教えた最初の学年です。手作りの講義でした。  入学してまもない時期に、「法は倫理の最低限」とか、医療はVUCAの世界で、何かルーチンでないことをする場合は「医療倫理の4原則を守り、手続的正義」を踏みなさい」と言われても何のことか解らなかった、と言うのが正直な感想かも知れません。ただ、卒業し現場に出るとその意味が判る時がきます。医療者であれば必ず。

英語では卒業をGraduation、卒業式をCommencement と言います。Graduateには、一つが終わり何かに向かってone stepあがるという意味があります。一方、Commencementは、始まりを意味します。当校のような専門学校や大学の卒業式であれば、社会に出て大人としての活動が始まることを意味します。実際に皆さんの多くは、4月から看護職として医療の現場に出ることになります。卒業式とは社会への門出を祝うセレモニーです。

学校と社会の違いのひとつに、正解があるかないかと言うことがあります。皆さん方が、小学校から高校で学び、そして先日受けた国家試験では、必ず正解があります。それもただ一つの。 これまでは、答えのある問題に、できるだけ早く正解を出す能力が評価され、成績が良いとはそう言うことでした。 しかし、これからは違います。社会に出ると正解のない、時には答えさえない問題に出会います。医療の世界も同じで、正解がなかったり、あっても一つでないことがしばしばです。寧ろその方が多いかも知れません。

更に、医療では目の前で病む人を相手にしますので、正解がこれだと解らなくても、自信ある答えがなくても、一定時間内に決断し、何かをしなければなりません。
同時に医療では、例えば、人生の最終段階における決定や延命処置の様な課題に関しては、問題を性急に措定(そてい)せず生半可な知識で答えを出さないことも大切です。医療の現場に出た時、皆さん方が直面する問題に対し、今直ぐ答えが要るのか、答えが要るとして何時まで待てるのかを的確に判断できるようになって頂きたいと思います。

いずれにしても、医療の重い問題に対しては、せっかちに帳尻を合わせの答えを出さず、宙ぶらりんの苦しい状態に耐え、自分の知識や智恵を動員し考え、医療チームで議論することが大切です。その能力は、昨年も申し上げましたが、詩人ジョン・キーツや精神科医の帚木蓬生(ははきぎほうせい)さんが言うところのネガティブ・ケイパビリティだと思います。
ただ、これを実戦するのは非常に難しい。何故なら、私もですが、皆さん方は20年以上にわたり、1+1は2の世界に慣れ親しんできたからです。訳の分からないもの、何か困った問題を見つけたら、私達はすぐに意味づけをし、何とか分かろうとします。そして、とりあえず答えを出してしまいます。本当に大切な問題にたいしても、真の答えを求めないまま、仮の答えで満足して問題を脇に置いてしまいます。最終的にそうした問題が積み重なると、長い人生の旅路の末に、オーストラリアの介護士ブロニー・ウェアさんの言う人生の最終段階における5つの後悔を生むことになります。

では、後悔しないため、直ぐには解決できない問題に対しどう対処すれば良いのでしょうか。 医療に関しては、問題を投げかけるシステムを大阪病院には造りましたが、少なくとも私は解決法は知りません。

ただ、今直ぐ答えをださないと患者さんが困ったり、人生が大きく変わったりしないのであれば、納得できる答えが出るまで待ち、物事を突き詰めた方が良いでしょう。こんなことで悩んでいて良いのかという不安の中、それに耐え、真の答えを見つけるには、医療であれば病む人に対する、人生であれば自分自身や家族、仲間に対する深い愛情や共感が必要だと、帚木(ははきぎ)先生は仰います。私も同感です。

これから、皆さん方の社会人としての、医療人としての人生が始まります。そのけじめが今日のこのCommencement Ceremonyです。今後の人生で、皆さん方のCarrierで、難しい状況に陥った時、勇気と知恵、そしてネガティブ・ケイパビリティを発揮して答えのない人生の課題や正解のない医療の問題に挑んで頂きたいと思います。

今日の卒業式、小雨模様になりました。人生毎日晴天ばかりではありません。雨も降ることがありますし、雨は生命に必要です。今後の人生やCarrierで雨や嵐に遭った時、大切なことは、自分を信じ前向きにChallengeすることです。

60年以上生きた私の人生を思い起こし、人生は振り返れば良く解ります。しかし、その時は、解決の見込みは立たず、正解は解りません。それでも、前向きにしか生きられません。医療も全く同じです。医療は複雑で急速に変化しており、課題は不明瞭で結果は不確実です。その中で、何らかの医療行為が求められ、すれば患者さんには必ずoutcomesがついてきます。患者さんにとって良いか悪いかは別にして。
それを前向きにChallengeして、結果として、患者さんにとってより良いものにするのは、皆さん方の知識とスキル、そして共感力と愛情に裏付けされた智恵であり決断です。

皆様方の医療人としての船出が幸多からん事を祈念し、以上で学校長の式辞とします。
最後に、あらためまして、皆さん、卒業、おめでとうございます。

令和6年3月6日

大阪病院附属看護専門学校 学校長 西田俊朗