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2024年度卒業式 学校長 式辞

2024年度卒業式 学校長 式辞

今日ここに大阪病院附属看護専門学校を卒業される11期生37名皆さん、卒業おめでとうございます。大阪病院並びに看護専門学校を代表し、心よりお祝い申し上げます。また、ご家族ご親族の皆様方にも、この場をお借りし心からのお祝いと感謝を申し上げます。

11期生は、私が大阪病院に入職し講義を受け持った二年目の学年です。入学してまもない頃、「医療倫理で大切なことは何か」とか「ACPを進めるにはどうすれば良いか」考えて下さいと言われ、戸惑ったと思います。また将来、医療の現場に出て、これまで経験したことのないことに出くわした時、どう考え、どう対処するのが良いのか、と言ったお話しもしました。皆さん方には中々ぴんと来なかったかもしれません。

人生は振り返ってみればよく解るのですが、例えば、あそこで勉強していたら追試は避けられたのにとか~人は先のことを考えそれに備えるのは苦手です。これからの人生、どうしたら幸せになれるのかを考え、あらかじめ準備したりするのは、余り得意ではありません。ただ、誰も幸せになりたいと願っています。皆さんもキットそうでしょう。そこで今日は、卒業生の皆さんが、これから社会にでて働き、幸せになりたいなら、その手掛かりのお話をしたいと思います。

最近の研究で、人が幸せになるには、幾つかのものは必要で、逆に無い方が良いものがあるということが解ってきました。

英単語では、HappinessとWellbeingの二つの言葉があります。どちらも日本語では幸せです。ただ、少し意味が違います。Happinessは一時的で感情的な幸福感です。美味しいものを食べた後、「ああ、幸せ」と感じる時の幸せです。

一方、Wellbeingは持続する幸福感で、その時それと気付かないこともあります。身体的に、精神的に、社会的に、良好な状態です。
今日は後者~Wellbeingに関して二つの話をします。

一つ目は、幸せな人生に必要なものの話です。

アメリカのボストンで80年以上にわたり行われた「ハーバード成人発達研究」と言う疫学研究があります。ボストンの住民に定期的にアンケート調査し、被験者のその後の人生の幸福度や健康状態、経済的な豊かさ、社会的な地位、そして成功したかどうかなどを追跡した研究です。
被験者は有名人を含むハーバード大学卒業生、例えばJFKから、経済的に困窮し、大学にも行けないボストンのウエストエンドの貧困区の出身者まで様々です。80年の時を経て解ったことは、確かにハーバード大学の卒業生の多くは、卒後、高収入を得て社会的に高い地位に就いていました。しかし、これらは必ずしも幸せな人生を保証するものでありませんでした。売れっ子作家やウォール街の目を見張る様な高給取りと言った夢のような職に就きながら、仕事や生活、家庭に不満を持っている人が少なくありませんでした。一方、ウエストエンド出身者の殆どは、ハーバード大学の卒業生に比べ、職業は選べず、きつい仕事に就き、稼ぎは少なく、早くに退職を迫られ、苦しい家計をやりくりする毎日でした。しかし、追跡期間を終える頃、この人達が不幸かと言うとそうでもなく、つつましい生活の中にしみじみとした幸せを味わっていました。この人達は仏教でいう「足る」いう概念を知っていたのかも知れません。

いずれにしても研究者たちはこの研究から、健康で幸せな人生には良い人間関係が欠かせないこと、特に、人生の多くの時間を費やす職場の人間関係と家庭での人間的繋がりが大切であると云います。同時に、幸せな人生とは、山あり谷ありの人生で、難題や課題が山積しており、詰まる所、決して「楽な」人生ではないとも言っています。

これから皆さん方は、本校を卒業し社会に出て働きます。職場で、そしてことによると家庭でも、様々な問題や難題、人間関係のトラブルに出会い、嫌な思いをするかも知れません。喧嘩をし、涙を流する日もあるかも知れません。でもそんな困難に全力で臨み、乗り越えた先に信頼の繋がりを見つけられたなら、例え金持ちにならなくても、幸せになれるということです。

二つ目は、幸せには不要なもの~捨てるべきものの話です。

今の時代、私が生まれた20世紀中ごろ~1950年代半ばと比べると遥かに豊かで便利で快適になりました。暑い日にはクーラーもあれば美味しいケーキもあります。解らないことがあればスマホに尋ねれば大抵のことは教えてくれます。

所が、最近、日本は無論、世界中の若者の間で不安が蔓延しています。アメリカの調査によると、アメリカ人の若者でさえ、3分の1から5分の1近くが少なくとも一時的に、或いは恒常的に不安を抱えています。エリート大学に入学する優秀な学生の多くが、Fear of Missing Out (FOMO)~取り残されることへの不安を抱いています。これは成果主義の結末だという人がいます。それだけでしょうか?

よく私たちは食事のお店を選ぶときに口コミやレビューを参考にします。同じカテゴリーのもので比べるのは役に立ちます。やはり美味しいものを食べたいですから。でも何でも比べれば良いという訳ではありません。先日、京都の名刹、妙心寺の偉いお坊さんが、妙心寺の退蔵院と、富士山と、そしてUFJが、グーグルマップの評価で同じ4.5と評価されていること見て、びっくりしていました。確かにこの三つは観光スポットです。が、そもそもこの三つは全く違う歴史や成り立ち、目的を持ちカテゴリーも違います。それを比較してしまう社会は如何なものかと仰っていました。

今はSNSの時代です。インスタやFacebookでは、行ったこともない名所の素晴らしい写真や美味しそうな料理、高級なホテルでくつろいでいる知り合いがそこにいて、これでもかと写真をあげています。一方、私達は、日々、がんの痛みで苦しむ患者さんや、身体が不自由なお年寄りを、治療したりケアをしながら、毎日、夜も寝ずに働いています。SNSを見ていると、比較できないものをつい比較してしまい、夜勤明けに一寸美味しいものを食べても不満がたまり、このままで良いのか、と不安を抱いてしまいます。

こういった比較からくる不安、Fear of Missing Outや比べるべきでないものを比べてしまうことから来る不満を避けるには、自分のPurpose、自分がここに存在し働く意義を明確に持つことが大切です。つまり、SNSの世界で他人が決めた基準に従い、「いいね」を一番沢山集めてNo. Oneになろうとするのではなく、自らの存在意義や働き方を大切にする~Only one生き方に心がけることが重要だと思います。

この学び舎を卒業していく皆さんにとって、前途は決して穏やかな日ばかりではありません。様々な問題や課題が横たわっており、山あり谷ありの人生が待っていると思います。だからこそ幸せになれるのです。本当の幸せをつかむには、家族や友人を大切にし、難題に挑み、働き生きぬくことが大切です。それは決して難しいことではなく自分のPurposeを信じ、Only oneの生き方すれば良いのです。学校長として、医療の先達として、皆さんには是非そうあって欲しいと切に願っています。

皆さん方の今日の船出に幸多からんことを、そして、皆さん方の航海が、例え波高くとも、良い人間関係のもとで幸福な人生をつかみ取れられんことを祈念して、以上、学校長の式辞とします。

最後に、あらためましてもう一度、卒業、おめでとうございます。

令和7年3月5日

大阪病院附属看護専門学校 学校長 西田俊朗