独立行政法人 地域医療機能推進機構 大阪病院

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手の外科・外傷センター

轉法輪

轉法輪 光

てんぽうりん こう
役職
手外科・外傷センター長
経歴
2000年 大阪大学医学部卒業
専門分野
末梢神経外科

手・肘の外科・関節鏡手術
資格
日本整形外科学会専門医

日本手外科学会専門医・指導医

特徴

関節鏡(肘関節、手関節)を積極的に活用しており、特に肘関節鏡手術は国内でも有数の症例数を誇ります。関節鏡手術では低侵襲な手術を実現し、早期回復を目指しています。また、他の施設では扱うことの少ない野球肘(離断性骨軟骨炎、靱帯断裂)、神経や腱の再建術、骨折の変形治癒や偽関節などに関してはこれまでに豊富な治療経験を有しており、治療困難な症例についても積極的に治療に当たっています。

診療内容

手・肘関節の骨関節、靱帯、腱、神経など様々な領域を扱い、疾患は多岐にわたります。骨折・脱臼などの外傷や、手根管症候群などの一般的な疾患をはじめ、野球肘や変形性肘関節症、上腕骨外側上顆炎などの肘関節疾患、TFCC損傷や腱損傷など、専門的な知識を必要とする疾患に関しても診療にあたっています。また、手・肘関節領域の小児骨折に関しても積極的に受け入れています。

肘関節鏡術中写真(リウマチ滑膜切除術)

肘関節鏡術中写真(リウマチ滑膜切除術)


診療実績

診療実績(2020年度)
主な手術実績
手術総数 412
関節鏡視下手術 46
神経手術 67
離断性骨軟骨炎手術 18
関節手術 18
骨折・偽関節手術 116
腱・靭帯手術 30
詳細について

人間の手は繊細な動きと感覚を有し、そのためにわずかな傷害がその人の仕事や生活に問題を引き起こします。手に大怪我を負った場合の機能障害はその人の人生を左右しかねません。「意志を持って外に働きかける(物を形作る、触れて感じる)」という行為は「人間が生きている証し」としてとても重要な要素であり、それを実際に行うのが「手」という器官なのです。この人間の最大の道具である「手」を自分の思う場所に向かわせるために、上肢、特に「肘関節」の機能も見逃せません。プロ野球投手が超人的なスピードのボールを針の孔を通すようなコントロールで投げ込むために「肘」の役割は大変重要です。

皆さんは臨床医学の領域の中に「手外科」あるいは「手の外科」という分野があるのをご存知でしょうか?かつて第二次世界大戦中、傷ついた兵士らの治療にS.Bunnellという外科医が専門医療チームを率いてあたり、目覚ましい治療成績をあげ得たことを契機に「手(の)外科:Hand Surgery」という専門分野が生まれました。1946年には米国にASSH:米国手外科学会が、その後日本にも1957年にJSSH:日本手外科学会(当初は「日本手の外科学会」)が設立されて手の治療の専門家集団として活動しています。当院の「手の外科・外傷センター」もその基幹施設として、患者さんの治療と若きドクターの教育を併せ行っています。「手外科」の神髄はDr. Bunnellが最も強調した「atraumatic surgery:傷つけない外科手技」に尽きます。すなわち生体組織をできるだけ傷つけないよう愛護的に扱うことで、美しく繊細な「手」の機能を回復させ、またそのatraumatic surgeryの技術を外傷全般の治療にも活かして早期修復を目指します。これはトップアスリートを目指すスポーツマンの治療にも当てはまることであり、野球肘など上肢のスポーツ傷害に対してもatraumatic surgeryを駆使してその復帰を支援する、それが当院「手の外科・外傷センター」の役割です。

対象疾患

上肢の複雑骨折12)、難治骨折(偽関節・変形癒合など)の再建4)13)14)28)、肘・手指の関節リウマチによる変形、肘外傷後拘縮、変形性関節症11)23)27)

野球肘に代表される上肢のスポーツ障害(離断性骨軟骨炎靭帯損傷)7)18)20)21)25)

小児期骨折後の変形先天奇形2)

絞扼性神経障害(手根管症候群、肘部管症候群)、神経損傷(神経断裂、外傷性腕神経叢損傷)、神経原性腫瘍6)

腱断裂麻痺手に対する腱移行による機能再建、腱鞘炎に対する手術治療

その他、上肢の難治性病態1)22)26)

治療方針および我々の得意とする手術方法

手は人間の社会生活において「何かをなす」時に最も重要な器官であり、その「手」を効果的に配置するために、肘関節など「上肢」の役割は重要です。その役割を果たすためには、「骨」「関節・軟骨」「靭帯」「筋肉」「腱」「神経」「血管」「皮膚」のそれぞれの役割を理解し治療することが必要となります。我々「手の外科外傷センター」は上肢のスポーツ障害を含む上肢の傷害を総合的に治療する専門センターです。

骨折をはじめとする外傷に対しては、可能な限り解剖学的な修復を目指しての治療、陳旧例に対しても解剖学的再建を基本方針としています。

神経損傷に対してはマイクロサージャリーの技能を用いて神経移植や神経移行など機能再建術を行っています。

外傷の陳旧例や偽関節例などに対しては、自家骨移植や骨軟骨移植などの手技を駆使して機能再建を行っています。自家組織を犠牲にしないために新素材の応用(生体親和性人工骨、生体親和性セメントなど)や、PCシミュレーションなど最新の技術を駆使して効率的な治療の実現を目指しています。3)9)。

日本ではまだそれほどポピュラーとは言えない肘や手など小関節に対する関節鏡視下手術5)も早い時期から導入しその経験も豊富で、小侵襲手術によりリハビリテーションの期間が短縮され、早期社会復帰・早期スポーツ復帰が可能です。

野球肘に代表される若年者の肘のスポーツ関節障害に対しては関節鏡を用いた小侵襲手術による早期スポーツ復帰を目指すと共に、重症例に対しては正常に近い関節面を再建しスポーツ復帰を目指すべく、自家骨軟骨移植など最先端の手術を行っています。我々の行ってきた膝関節8)や肋骨を用いた肘関節面の再建手術10)はすでに100例を超え、国内はもとより国外においても高い評価を受けています。その他、肘の靭帯損傷、手関節TFCC損傷、舟状骨骨折など手・肘のスポーツ傷害に対して数多くの症例の治療経験を有しており、そのスポーツ復帰に寄与してきました。

陳旧化した骨折後の変形や偽関節例に対しては、大阪大学整形外科の手の外科グループと連携し、MRIやCTデータを解析して患者様の立体的な骨の形状や動きを解析することにより最適な治療法を検討し実践しています。(三次元術前動態解析・手術計画システム)27)さらに人工肘関節置換術なども数多く手掛けています。

治療(手術)の実際

(1)神経移植(図Hand 1)

怪我などより神経が断裂すると、そこから先の機能が失われます。すなわち手が動かせない、指先の感覚が失われる、などです。ナイフなどで鋭利に切れた場合には縫合が可能ですが、えぐられたような傷(上図左)や受傷後時間が経った傷の場合には神経を繋ぐのに間を橋渡し(架橋)してやる必要があります。人工神経などの研究も進んではいますが、現時点で最も成績が安定しているのは自分のふくらはぎや腕の内側からあまり重要でない神経を採取して移植する、自家神経移植(上図右)です。手術用顕微鏡を用いて切れた神経の間を神経移植することで、機能回復を目指します。

(2)肘関節障害に対する関節鏡視下手術(図Hand 2)

スポーツ選手の「使いすぎ」に伴う肘関節の障害が代表ですが、長年の重労働の結果や、あるいは骨折など外傷の結果起こる関節障害関節リウマチなどの病気に伴う関節障害に対して、関節鏡視下に障害部位を観察し傷んでいる部分を切除して、痛みや関節の動きを改善します。従来の手術方法に比べ筋肉などへのダメージが少なく、リハビリテーションが早く開始でき、結果的に仕事やスポーツへの早期復帰を図ることができます。最近ではテニス肘などの疼痛改善にも応用し、効果をあげています。

(3)野球肘に対する、自家肋骨を用いた骨軟骨移植による肘関節再建手術(図Hand 3)

少年期の上肢の代表的スポーツ障害に肘の離断性骨軟骨炎があります。成長期における肘の使いすぎが主な原因と考えられていますが、気付かずにスポーツを続けていると、肘関節面の骨が軟骨ごと剥がれて「関節ねずみ」という遊離軟骨になってしまいます。小さければ関節鏡手術で取り除くだけで早期スポーツ復帰が可能ですが、大きいと障害が残ります。これを正常に近い軟骨組織で修復しようという試みがなされつつあり、我々はその治療法における日本のトップグループの一員であると自負しています。

以前は膝の一部から軟骨を移植する方法を行っていました。これは大変よい成績だったのですが、やはりスポーツ選手の膝に傷をつけることが長期的に問題にならないという保証はないことから、最近では肋軟骨を用いる方法を行っています(上図)。これも現時点では大変良い成績を上げており、採取部位の影響も少ないことから今後広まっていく方法と期待されています。

(4)三次元動態解析によるコンピューター支援手術(図Hand 4)

骨折後に骨が変形癒合したり、ずれた位置で偽関節になったりすると、それを本来の位置に戻すことが治療の原則になります。しかし、長期間を経て周囲にまで変形が及んだ場合、その立体的な骨構造を正確に矯正することは難しく、また矯正したことで却って思わぬ機能障害をもたらす場合もあります。

これを防ぎ良好な機能を得るために、術前にCTやMRIなどで3次元的な形態を調べ、時には関節の動きをコンピューター上に再現して術前に手術をシミュレーションすることが可能になりつつあります。例えば上の図のように、陳旧化した偽関節の遊離骨片を手術で固定する場合、術前のCTでいろんな位置に骨片を固定する場合をシミュレーションします。それを術中確かめながら術前計画した最適な位置に固定すれば、機能良好な関節を再建することができます。

また変形性肘関節症では、骨の棘(骨棘)ができて痛みの原因になったり、動く範囲(可動域)の制限につながります。この動きの邪魔をする骨棘を削ることで症状の改善が期待できます。われわれはCTを用いてコンピューター上でこの骨棘の場所を描出し、関節鏡で骨棘を削るときに効率的に手術が行えるようにしています。

我々のグループではこの手法を使って最適な骨接合、最適な変形矯正を行い、結果的に良好な機能獲得を実現しています。

(5)人工肘関節置換術

手術件数が少なく、また手術できる医師の数が限られているため、股関節や膝関節ほどは知られていませんが、肘関節でも人工関節を行うことができます。

関節リウマチや粉砕骨折、骨折後の変形治癒など、関節が破壊されて痛みを伴っていたり、動きの制限が強い場合など、関節の温存が困難な場合には人工肘関節置換術を行っています。破壊された肘関節の表面を削り、人工物(チタンやポリエチレン)で置き換えます。現在は様々な人工関節が開発されおり、主には非拘束式(阪大式人工関節など)や半拘束式人工関節(Coonrad-Morrey式人工関節など)がありますが、関節の状態に応じてそれらを使い分けています。人工関節により痛みがほとんどなくなったり、動く範囲が拡大したりして日常生活が楽に送られるようになります。

手術後には2週間程度の安静ののち本格的なリハビリが始まりますが、最初は注意深く状態を観察する必要があり、3週間程度は入院してリハビリを進めます。2か月程度で通常の生活に戻れるようになります。

人工関節は耐久性に対して注意が必要であり、肘に負担のかかる動作は避ける必要があります。長年経過すると緩みや摩耗がでることがあり、調子が良くても定期的に通院する必要があります。

関連業績

  1. 島田幸造、多田浩一、吉田竹志ほか.手関節尺側部障害に対する治療. 日手会誌7:626-631, 1990.
  2. 島田幸造、河井秀夫、川端秀彦ほか. 撓側列形成不全における母指再建術. 日手会誌8:498-502, 1991.
  3. Yamamuro T, Matsusue Y, Shimada K et al. Bioabsorbable osteosynthetic implants of ultra high strength poly-L-lactide. A clinical study. Int Orthop 18:332-340、1994
  4. Shimada K, Masada K, Tada K et al. Osteosynthesis for the treatment of non-union of the lateral humeral condyle in children. J Bone Joint Surg 79-A:234-240、1997.
  5. 島田幸造、米田稔、広岡淳. 肘関節の関節鏡および鏡視下手術. MB Orthop、10 (13):83-92, 1997.
  6. Shimada K. Brachial Plexus Tumors. in Brachial Plexus Palsy, ed by Kawai H and Kawabata H. pp 271-290. World Scientific Publishing Co Pte Ltd, Singapore 2000.
  7. 島田幸造、秋田鐘弼、濱田雅之ほか:スポーツによる肘関節離断性骨軟骨炎の治療. 臨床整形外科35:1217-1226, 2000.
  8. Shimada K, Yoshida T, Nakata K, et al.: Reconstruction with an osteochondral autograft for advanced osteochondritis dissecans of the elbow. Clin Orthop 435:140-147, 2005.
  9. 島田幸造、斉藤正伸、中島俊秀ほか. 骨親和性セメント"Hydroxyapatite Composite Resin"を用いた高齢者橈骨遠位端骨折の治療. 日整会誌、80:435-441, 2006.
  10. 王谷英達、島田幸造、櫛谷昭一ほか:肘関節面の大きな欠損に対する自家肋骨骨軟骨移植による再建. 中部整災誌、50:953-954, 2007.
  11. 島田幸造:変形性関節症に対する鏡視下手術. 関節外科, 2007.
  12. 三宅潤一, 正富隆, 高樋康一郎ほか:高齢者上腕骨遠位端骨折に対する手術的治療. 別冊整形外科52:34-37, 2007.
  13. 三宅潤一, 正富隆, 高樋康一郎ほか.小児期受傷の成人上腕骨外顆偽関節に対する骨接合術. 臨床整形外科42:1215-1219,2007.
  14. 三宅潤一, 正富隆, 高樋康一郎. 尺側偏位亜脱臼を伴う陳旧性PIP関節橈側側副靱帯損傷に対する手術治療. 日手会誌24:170-173,2007.
  15. 島田幸造、三宅潤一、十河英司ほか:離断性骨軟骨炎による肘の関節面欠損に対する自家骨軟骨柱移植術.別冊整形外科:101?107,2008.
  16. 十河英司、島田幸造、三宅潤一ほか:Depuytren拘縮に対する創部開放療法の新たな試み.別冊整形外科54:195?198,2008.
  17. 田中啓之、村瀬剛、島田幸造ほか:腕神経叢および上肢に発生した神経鞘腫の術後成績の検討.日手会誌25:409-411,2009.
  18. 島田幸造、田中啓之、野口亮介ほか:投球障害肘の病態と治療 [治療] 上腕骨小頭骨軟骨障害治療 肋骨を用いた自家骨軟骨移植による治療.臨床スポーツ医学.28:537-542.2011.
  19. 野口亮介、田中啓之、島田幸造ほか:小児上腕骨内上顆骨折の手術治療.中部整災誌.54:589-590,2011.
  20. 田中啓之、島田幸造、野口亮介:上腕骨小頭離断性骨軟骨炎に対して移植した肋骨肋軟骨片のMRI評価.日肘会誌.18:234-236,2011.
  21. Shimada K, Takana H, Matsumoto T et al. Cylindrical Costal Osteochondral Autograft for Reconstruction of Large Defects of the Capitellum Due to Osteochondritis Dissecans. J Bone Joint Surg. 94-A: 992-1002,2012.
  22. Shimada K, Takedani H, Inoue K et al. Arthroscopic synovectomy of the elbow covered with rFVIIa in a haemophilia B juvenile with inhibitor. Haemophilia. 18:e14-e16,2012.
  23. 野口亮介、田中啓之、島田幸造:母指CM関節症に対するThompson方の治療成績.日手会誌.28:377-380,2012.
  24. 田中啓之、野口亮介、島田幸造:血液透析患者に対する手根管解放術後のpillar painの検討.日手会誌.29:462-465,2013.
  25. 轉法輪光、野口亮介、島田幸造:内側型および外側型投球障害の関係.日肘会誌.20:108-111,2013.
  26. 島田幸造、轉法輪光:血友病性関節症の手術 血友病肘関節滑膜切除術.血液フロンティア.24:436-450,2014.
  27. 轉法輪光、野口亮介、三宅潤一ほか:変形性肘関節症に対する鏡視下関節形成術におけるコンピューターシミュレーションの有用性.日手会誌.30:789-791,2014.
  28. 岩橋 徹, 野口 亮介, 轉法輪 光, 島田 幸造, 大脇 肇:余剰仮骨による前腕回外運動障害が一因と考えられた橈骨骨幹部骨折後偽関節の1例.日手会誌.30:842-844.2014.
  29. 轉法輪 光, 富永 明子, 島田 幸造:Heberden結節に伴った粘液嚢腫に対する骨棘切除術の患者満足度調査.日手会誌.31:134-136.2014.

最終更新日:2023年11月05日

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