独立行政法人 地域医療機能推進機構 大阪病院

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膝関節

手術実績

2023年1月~12月 181例

  • 全人工膝関節置換術
    (TKA: 変形性膝関節症 153例、関節リウマチ 10例、大腿骨内側顆骨壊死 2例): 165例
  • 人工膝関節再置換術: 1例
  • 単顆式人工膝関節置換術
    (UKA: 変形性膝関節症 10例、大腿骨内側顆骨壊死 5例): 15例

対象疾患

変形性膝関節症、関節リウマチ、大腿骨内側顆骨壊死

変形性膝関節症について

人間の膝は乳幼児では内反膝(O脚)ですが、成長と共に正常な膝形態(軽度なX脚)に変化します。多くの人はそのままの形態を維持しますが、年齢を重ねるに従って再び内反膝(O脚)や外反膝(X脚)変形を生じる方が出てきます。

その多くは変形性膝関節症という病気で、膝の軟骨が摩耗し骨同士が直接擦れるため歩行や階段にて膝に痛みが生じます(正常膝では軟骨同士が擦れて痛みはありません)。原因としては肥満、性別、外傷、遺伝、職業等が指摘されています。

レントゲン写真には軟骨は写りませんので、レントゲン写真での軟骨の厚さは関節裂隙(骨と骨の間の隙間)の厚さとなります。つまり変形性膝関節症のレントゲン写真では関節裂隙が狭くなり骨棘といわれる余分な骨が盛り上がり、内反変形(O脚)や外反変形(X脚)が見られます。

最近はiPS細胞を含めた再生医療が盛んに報道されており、一部は臨床応用も行われる様になりました。しかし現状での軟骨再生技術は部分的な損傷にのみ使用可能な段階であり、変形性膝関節症の様な広範囲な軟骨の摩耗には対応できません。変形性膝関節症に使用可能な軟骨再生技術の開発、臨床応用は恐らく相当先になると思われます。実際の治療としては痛み止めの使用、ヒアルロン酸の関節内注射、リハビリ等が保存治療(手術以外の治療法)として行われています。しかし進行した変形性膝関節症ですと保存治療で痛みは改善しないことも多いです。その場合は痛みを我慢するか手術治療を受けるかの選択になります。手術治療としては早期に歩行が可能であらゆる変形に対応可能な人工膝関節置換術、比較的若年者、変形が軽度で活動性が高い患者さんに行われる高位脛骨骨切り術(HTO)があります。ここでは人工膝関節置換術について説明したいと思います。

人工膝関節(TKA)の歴史

人工膝関節手術は軟骨が摩耗した関節の表面を切除し主に金属製インプラントと高分子ポリエチレンにより関節表面を再建する手術方法です。日本では年間8万人以上の患者さんがこの手術を受けておられます。

1942年に海外にて初めて人工膝関節が臨床使用されるようになりました。初期の人工膝関節の成績は芳しいものではありませんでした。しかし、1970年代以降様々な改良がなされ現在では人工股関節と同様に長い耐久性があります。様々な機種が使用されており、それぞれに長所短所があります。特に改良された点は1)細菌感染、2)人工関節の弛み、3)素材の摩耗、4)形状の変更などです。最新の論文では手術後15年でも90%以上の患者さんが再手術を必要とすることが無く生活されています。

1)細菌感染

抗生物質の進歩や無菌手術室・宇宙服の導入などによりその頻度は激減し解決されつつあります。

2)人工関節のゆるみ

長年経過すると人工関節と骨との繋ぎ目がグラグラしてくることがあります。使用金属の高品質化、骨セメントの改良、セメントを使わない固定方法の開発、人工関節のデザインや表面加工法の進歩により長期の良好な固定性を得られるようになってきています。

3)素材の摩耗

関節面から生じる素材の摩耗がゆるみの原因となっていることが最新の研究の結果明らかになりました。そのため、使用するプラスチックを高分子ポリエチレンに改良し関節面表面をよりなめらかに加工することにより摩耗粉が著しく減少しました。

4)形状の変更

関節表面の形状の工夫により正常膝に近い動きを再現することが可能な人工関節や金属表面の素材の摩耗やゆるみの減少が得られるようになりました。また、最近は非常に膝が深く曲がる場合にも人工関節が壊れることなく十分長持ちするように形状は改善されてきています。

現在でも十分満足のできる成績が得られるようになってきていますが、今後もより良い人工膝関節を目指して研究開発が進められています。

人工膝関節の今後の課題

  • 長持ちする人工膝関節を選択する。
  • 患者様の生活レベルや生活様式にあった人工膝関節を選択する。
  • 人工膝関節を正確に設置する。
  • 患者様の体の負担を最小限にした体に優しい手術をする。
  • 筋力の回復が早く早期社会復帰が可能な手術をする。

人工膝関節外科クリニックの方針

関節破壊の程度により関節の半分だけを手術する単顆式人工膝関節置換術(UKA)や全てを手術する人工膝関節置換術(TKA)など、患者様の状態に合わせた手術を選択します。

人工関節は複数の機種を用意しており、正常な膝に近い動きを再現する機種や変形の強い膝にも対応できる機種等の最新の人工関節を使用しています。また多くは深屈曲対応形状ですので十分に深く膝が曲がる患者様にも人工関節の破損を心配することなく安心して生活して頂けます。

骨セメントを使用していますので術直後から強固な初期固定が得られます。術後数日にて歩行訓練を開始することができます。

患者様の体への負担を少なくし早期社会復帰するための低侵襲(MIS)人工膝関節手術という手術法を導入しています。

また人工関節の骨への設置角度を決定する方法としてMeasured resection法(骨の形状に合わせて設置)とmodified Gap法(靱帯バランスに合わせて設置)がありますが、どちらの方法にも長所短所あるいは限界があります。そのため当院ではmodified Gap法を考慮したMeasured resection法という両方法の長所を利用した方法にて行っています。

手術の侵襲とは?

術における侵襲とは、手術時間、麻酔時間、皮膚や筋肉を切る長さ、筋肉へのダメージ、骨を削る量、出血量、合併症、術後の痛み、術後の筋力や機能の回復、入院期間など全てを包括した患者様の体への負担を意味します。低侵襲性手術(MIS)とは患者様の体への負担を最小限に抑える体に優しい手術です。

従来の方法による人工膝関節置換術の問題点

従来の方法では皮膚筋肉を約20cmの広範囲にわたって切開し、膝蓋骨(膝のお皿)を反転して(ひっくり返して)手術を行っていました。しかしこの方法では大腿四頭筋(太ももの筋肉)を強く痛めてしまい、術後の痛みも強く膝の機能回復に時間がかかっていました。

低侵襲人工膝関節置換術(MIS-TKA)とは?

1990年代後半からアメリカを中心として低侵襲人工膝関節置換術が行われるようになってきました。日本では2002年頃から導入されて徐々に広がってきています。

低侵襲人工膝関節置換術は皮膚や筋肉の切る範囲を最小限(8-12cm程度)にし、膝蓋骨の反転も行いません。そのため大腿四頭筋(太ももの筋肉)に対する影響も少なく術後早期の膝機能の回復が得られます。また、手術侵襲が少ないため術後の痛みも軽度です。この手術方法は人工膝関節に関して最も注目されている分野であり、多くの整形外科医が興味を持っています。しかし、技術的な難しさから現在既にこの方法が導入されている医療施設はさほど多くありません。人工関節クリニック(人工膝関節担当)西川昌孝は前職の市立豊中病院にて2004年から日本全国でも比較的早期にこの手術方法を導入し700例以上の十分な実績があります。またその経験および技術の進歩によって一般には低侵襲手術が困難とされる患者様に積極的に行っています。また低侵襲手術について多数の学会報告を行っており、自信を持って勧められる手術方法です。ただ、この方法は全ての患者様に対して行えるものではありません。もちろん手術侵襲が少ない方が望ましいですが、肝心の人工関節の手術が不十分になっては全く意味がありません。経験上は90%以上の患者さんに低侵襲手術は可能ですが術前の膝の変形が強い方、体格が大きい方、皮膚が弱い方、再手術の方などはこの方法が行えない可能性があります。また、低侵襲人工膝関節を行う予定でも手術中の判断で通常の手術法に変更することもあります。

低侵襲人工膝関節置換術(MIS-TKA)

低侵襲単顆式人工膝関節置換術(MIS-UKA)

高度変形膝に対する人工膝関節置換術

低侵襲手術のみならず豊富な経験と技術にて高度変形膝に対しても積極的に手術加療を行っています。

関連業績

  1. 西川昌孝ほか:JOUNREY II BCS及びTriathlon PSの術後1年満足度 (New Knee Society Score) 「日本人工関節学会誌」2021; 51: 263-264.
  2. Hirao M et al. Modified anterolateral approach for total ankle arthroplasty.Foot & Ankle Orthopaedics 2021; 6(2): 1-7.
  3. 西川昌孝ほか: TKA術後リハビリの変更による術後2年膝機能評価 (New Knee Society Score) 「日本人工関節学会誌」2020; 5: 23-24.
  4. Ebina K et al. Impact of combining medial capsule interposition with modified scarf osteotomy for hallux valgus. Mod Rheumatol 2020; 30(1): 204-210.
  5. 西川昌孝ほか: TKA術後リハビリの変更による術後早期ROM獲得の有用性-術後2年成績- 「日本人工関節学会誌」2019; 49: 375-376.
  6. Nishikawa M et al. Nivolumab-induced recurrence of rheumatoid arthritis in a patient with metastatic gastric adenocarcinoma. Clin Drug Investig 2019; 39(12): 1251-1254.
  7. Nishikawa M et al. Bone stock reconstruction for huge bone loss using allograft-bones, bone marrow, and teriparatide in an infected total knee arthroplasty. J Clin Orthop Trauma 2019; 10(2): 329-333.
  8. Ebina K et al. The add-on effectiveness and safety of iguratimod in patients with rheumatoid arthritis who showed an inadequate response to tocilizumab. Mod Rheumatol 2019; 29(4): 581-588.
  9. 西川昌孝簡易スペーサーを用いた大腿骨冠状面骨切り精度向上の試み 「日本人工関節学会誌」2018; 48: 469-470.
  10. Nishikawa M et al. Relationship between calcium pyrophosphate dehydrate crystal and operated knee osteoarthritis: gender specific analyses. Scand J Rheumatol 2018; 47 (Suppl 129): 39.
  11. Nishikawa M et al. Relationship between calcium pyrophosphate dehydrate crystal and operated knee osteoarthritis - gender specific analyses-. Ann Rheum Dis 2018; 77 (Suppl 2): 1634.
  12. 西川昌孝ほか: TKA術後リハビリ変更による術後早期ROM獲得の有効性 「日本人工関節学会誌」2017; 47: 351-352.
  13. Kaneshiro S et al. The efficacy and safety of additional administration of tacrolimus in patients with rheumatoid arthritis who showed an inadequate response to tocilizumab. Mod Rheumatol 2017; 27(1): 42-49.
  14. Nishikawa M et al. Platelet associated IgG in patients with rheumatoid arthritis. Ann Rheum Dis 2016; 75 (Suppl 2): 216.
  15. 西川昌孝ほか: Bi-cruciate stabilized TKAは術後早期ROM獲得に有効か? 「日本人工関節学会誌」2016; 46: 609-610.
  16. Nishikawa M et al. Acquired permanent dislocation of the patella in a patient with rheumatoid genu valgum.J Clin Orthop Trauma 2015; 6(2): 120-125.
  17. Nishikawa M et al. Eight-year preservation of knee function with radiographic healing phenomena after anti-tumor necrosis factor-a therapy for a severely erosive knee in a young patient with rheumatoid arthritis. Acta Reumatol Port 2015; 40(1): 72-76.
  18. 西川昌孝ほか: 人工膝関節全置換術による大腿骨遠位部前後長変化の臨床成績に与える影響 「日本人工関節学会誌」2015; 45: 495-496.
  19. 西川昌孝ほか:後天性恒久性膝蓋骨脱臼を伴う高度外反変形膝を呈した関節リウマチ症例に対して人工膝関節置換術を施行した一例 「日本人工関節学会誌」2014; 44: 853-854.
  20. Nishikawa M et al. Preoperative morphometric differences in the distal femur are based on skeletal size in Japanese patients undergoing total knee arthroplasty. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2014; 22(12): 2962-2968.
  21. Nishikawa M et al. The clinical effects of post-operative anterior-posterior length mismatch in distal femur with after total knee arthroplasty. Reconstructive Review 2014; 4 (Suppl 1): 416.
  22. Nishikawa M et al. The clinical effects of post-operative anterior-posterior length mismatch in distal femur with after total knee arthroplasty. Ann Rheum Dis 2014; 73 (Suppl 3): 1065.
  23. Nishikawa M et al. Disease activity, knee function, and walking ability in patients with rheumatoid arthritis 10 years after primary total knee arthroplasty. J Orthop Surg (Hong Kong) 2014; 22(1): 84-87.
  24. 西川昌孝ほか:Measured resection法MIS-TKAにおける大腿骨コンポーネント回旋設置精度 「日本人工関節学会誌」2013; 43: 401-402.
  25. 西川昌孝ほか:人工膝関節置換術施行患者における日本人大腿骨遠位部の術前骨形態 「日本人工関節学会誌」2012; 42: 557-558.
  26. Nishikawa M et al. Relationship between calcium pyrophosphate dehydrate crystal and osteoarthritis of the knee. Ann Rheum Dis 2012; 71 (Suppl3): 695.
  27. 西川昌孝ほか:人工膝関節置換術前後の足関節変形の変化 「日本人工関節学会誌」2011; 41: 532-533.
  28. 西川昌孝ほか:術者の異動に伴うMIS-TKA新規導入時の問題点 「日本人工関節学会誌」2010; 40: 672-673.
  29. 西川昌孝ほか:単一術者における高度内反変形膝に対する最小侵襲人工膝関節全置換術の成績 「臨床雑誌 整形外科」2010; 61: 1061-1065.
  30. 西川昌孝ほか:脛骨コンポーネントにaugmentationを使用したMIS-TKAの経験 「日本人工関節学会誌」2009; 39: 102-103.
  31. 西川昌孝ほか:単一術者における最小侵襲人工膝関節全置換術100例のコンポーネント設置精度臨床雑誌 「整形外科」2009; 60: 1151-1156.
  32. 西川昌孝ほか:最小侵襲人工膝関節全置換術における手術精度と安全性 「臨床雑誌 整形外科」2009; 60: 3-8.
  33. 金城聖一ほか:人工膝関節置換術におけるトラネキサム酸の投与タイミングの検討 The knee 2009; 33: 297-301.
  34. 西川昌孝ほか:単一術者におけるMIS-TKAのコンポーネント設置精度 「日本人工関節学会誌」2008; 38: 84-85.
  35. 金城聖一ほか:恒久性膝蓋骨脱臼を伴った変形性膝関節症に対して人工膝関節置換術を施行した一例 「中部日本整形外科災害外科学会雑誌」2008; 51: 443-444.
  36. 西川昌孝ほか:導入後2年間の最小侵襲人工膝関節全置換術の臨床成績と問題点 「臨床雑誌 整形外科」2007; 58: 1761-1766.
  37. 西川昌孝ほか:当院におけるMIS-TKAの成績と問題点 「日本人工関節学会誌」2007; 37: 288-289.
  38. 西川昌孝ほか:Knee Opus人工膝関節の中期成績 「日本人工関節学会誌」2006; 36: 186-187.
  39. 西川昌孝ほか:Augmentation metalを用いた人工膝関節全置換術の短期成績 「臨床雑誌 整形外科」2002; 53: 37-40.
  40. 西川昌孝ほか:全人工膝関節置換術におけるaugmentationの短期成績 「日本人工関節学会誌」2001; 31: 43-44.
  41. 西川昌孝ほか:Knee Opus人工膝関節の使用経験 「中部日本整形外科災害外科学会雑誌」2000; 43: 1267-1268.
  42. 西川昌孝ほか:PROFIX型人工関節の短期成績 「日本人工関節学会誌」1999; 29: 125-126.

最終更新日:2024年12月20日

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