乳腺・内分泌外科
つかもと ふみね
- 役職
- 乳腺・内分泌外科診療部長
- 経歴
- 1988年 京都府立医科大学医学部卒業
- 専門分野
- 乳腺外科
甲状腺外科
- 資格
- ●日本乳癌学会 乳腺専門医・指導医
●日本外科学会 専門医・指導医
特徴
●チーム医療を通じて患者さんの状態、ニーズに応じた治療の提供を心がけております。
●遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)に対応。
●入院中は「女性専用病棟」で治療を受けていただけます(フロア全体が女性・子どもフロアになっています)
●がん患者さんに対するアピアランスケアへの従前よりの取り組み。
診療内容
●乳腺・内分泌外科では3名の医師が乳腺の診療に専従しています。
●乳がんの診断、治療(手術、薬物療法)を主として行っています。
●当院はラジオ波焼灼療法が保険診療で可能な施設として日本乳癌学会から認定されています。
●乳房再建用エキスパンダー/インプラント実施施設として、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会による認定を受けており、乳がん手術と同時に乳房再建が行えます。
●手術や化学療法、放射線治療などを行う際に、治療と並行して状況に応じてリハビリテーションが行えます(リンパ浮腫複合的治療、がんリハビリテーション、運動器リハビリテーション)。
診療実績
ご紹介
現在、乳腺・内分泌外科では3名の医師が乳腺の診療に専従しています。
取り扱う疾患は乳がん、乳腺良性疾患です。
乳がんの診断および治療(手術、薬物療法)を行っています。
ラジオ波焼灼療法(RFA)について
がんの中に細い針状の電極を差し込んでラジオ波帯の電流を流し、発生する熱を 利用し、がんを凝固・焼灼し、死滅させる治療法です。
対象は腫瘍径1.5 ㎝以下の単発、触診及び画像診断による腋窩リンパ節転移及び遠隔転移を認めない限局性早期乳癌の患者さんです。 |
ラジオ波から発生する70~100度の熱で腫瘍を含めた3~4センチの範囲が球形~楕円形に焼灼されます。熱を加える時間は5~10分ほどです。 |
乳がんのラジオ波焼灼療法のメリットは、乳房を切らないため 傷は針穴のみの数mm程度で目立たず、乳房の変形も少ないことです。 |
乳房部分切除術よりも低侵襲で治療が可能で、5年同側乳房内無再発生存割合は乳房部分切除術と同等であり、新たな乳がんの治療選択肢となりました。
合併症は熱傷や皮膚感染。硬結やひきつれが残ることがあります。
治療は入院の上、全身麻酔で行います。
わきのリンパ節に対するセンチネルリンパ節生検を先に行い、引き続きラジオ波焼灼療法を開始します。
超音波画像で確認しながら電極針が腫瘍の中心を通るように穿刺します。
手術時間は1~1.5時間程度、入院は4~5日間です。
費用は3割負担の場合、入院費などを含めておおよそ15~16万円です。
保険診療で、この治療が可能なのは、日本乳癌学会よりラジオ波焼灼療法の 術者認定を受けた乳腺専門医が所属する施設に限定されています。 当院は2024年7月にラジオ波焼灼術が可能な施設に認定されました。 |
手術後は、乳房部分切除術の場合と同様に放射線治療を受けていただきます。
また、通常の手術の場合と同様に個々の患者さんに応じて、標準治療とされるホルモン療法や化学療法を行います。
放射線治療終了後3ヶ月を目途に造影MRI検査と超音波検査を行い、治療部位より吸引式針生検を用いて組織を採取し、顕微鏡レベルでがんが残存していないかを確認します。
がんの残存が認められた場合は外科的切除を行います。
乳がんについて
わが国では、女性がかかるがんの中で、乳がんが最も多くの割合を占めます。
2019年に新たに乳がんと診断された方は97,142人。
2020年に乳がんで死亡された方は14,650人。
年齢別では30歳代から増加し、45歳から49歳と65歳から74歳に罹患率のピークがあります。
現在、日本人女性の9人に1人 (10.6%) が一生のうち乳がんにかかるとされています。
当科の特徴
- 当院は専門的ながん診療機能を有する病院として大阪府がん診療拠点病院に指定されています。
手術、放射線治療及び化学療法を効果的に組み合わせた集学的治療及び緩和ケアを提供する体制を有するとともに、各学会の診療ガイドラインに準ずる標準治療等、がん患者さんの状態に応じた適切な治療を提供しています。 - 乳房再建用エキスパンダー/インプラント実施施設として、日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会による認定を受けており、乳がん手術と同時に乳房再建が行えます。
- 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome、HBOC)のがん既発症の方はリスク低減乳房切除術・乳房再建術ならびにリスク低減卵管卵巣摘出術を当院で受けていただくことができます。
※標準治療:科学的根拠に基づいた最も推奨される治療
- 外来治療センター:通院での抗がん剤や生物学的製剤の投与を行う部署です。電動ベッド7台、リクライニングチェア13台が稼働。看護師4名以上が常駐し、薬剤投与中の観察のみならず、帰宅後の副作用の予防、軽減のための援助を行っています。
- 手術や化学療法、放射線治療などを行う際に、治療と並行して状況に応じてリハビリテーションが行えます(がんリハビリテーション、運動器リハビリテーション)。
- がん患者さんに対するアピアランスケア
抗がん剤、ホルモン剤、放射線療法などの治療を行う際のメイク、下着、かつらや、その他生活全般に関する疑問、悩みに関する相談をお受けする場を設けています。 - 乳がん患者会 『つながり』
患者さんだけの集いを年3回、講師を招いての講演会を年1回、それぞれ開催しています。
当院での治療方針が決定してから治療開始までの期間
この情報はおおよその目安ですので、実際の診療が必ずしもこの通りに実施されない場合があることを、あらかじめご了承ください。緊急の場合は別途対応致します。
乳腺疾患(乳がん)の診断の流れ
●乳腺疾患の症状
■乳房のしこり |
■乳房の痛み |
■乳頭からの分泌物 |
■乳房、乳頭の変形、ひきつれ |
■乳房、乳頭の皮膚の赤み、ただれ |
*これらの症状がある場合は、医療機関を受診してください。良性の場合も多く、怖がらず、放置しないようにしましょう。
●乳がん以外の乳腺の主な疾患(良性)
■乳腺症 |
■乳腺のう胞 |
■線維腺腫 |
■乳管内乳頭腫 |
■葉状腫瘍(まれに悪性) |
■乳腺炎 |
*乳房にしこりがあっても、必ずしも乳がんとは限りません。
検査
●一般的な検査
1. 視触診
2. マンモグラフィ (乳房専用のX線撮影)
3. 超音波検査
●穿刺吸引細胞診(病理検査)
しこりに細い注射針を刺し吸引し、しこりの中の細胞を採取し、顕微鏡で見て良性か悪性かを調べる検査です。
●経皮的吸引式乳房生検システム (病理検査)
従来の外科的切開生検に比べ低侵襲。
局所麻酔を行いますが、皮膚切開は小さく(0.3~0.4cm)、皮膚切開部分の縫合は 不要、また乳房の変形は極めてまれで、傷もほとんど残りません。
超音波検査の画像を見ながら組織を採取します。
●乳がんと診断されてからの検査
➤がん組織でホルモン受容体、HER2、Ki67等の免疫染色を行い、サブタイプを確認します。乳がんのサブタイプ分類は、薬物療法を行う際に、どの薬を使用するかを決める判断材料となります。
➤MRI
乳房の中での乳がんのひろがりをみる検査です。乳房の切除範囲をあらかじめ想定でき、乳房温存手術が可能かを判断するのに非常に有用です。
➤CT
肺、肝臓などへの遠隔転移の有無を調べます
➤骨シンチグラフィ
骨転移の有無を調べます
*これらの検査の結果から乳がんの進行度・ステージを診断し、病状にあった最適な治療方法を患者さんとご相談し決定します。
また、ステージによっては、まず先に化学療法や内分泌療法を行います。
乳腺疾患の診療の流れ
手術について
当院では、乳がん治療の根治度を損なわず、かつ術後の障害のできるだけ少ない美容的にも満足のいく治療法を選択するように心がけています。
●乳房温存手術
腫瘤の縁から約1~2cm程度正常乳腺をつけて円状に切り取る円状部分切除、あるいは腫瘤を含めて乳腺を楔状に切り取る扇状部分切除があります。乳房・乳頭は通常温存します。乳房内再発を減少させる目的で、手術後に温存された乳房に対して、原則として放射線治療を行ないます。(放射線治療は25~30回に分け、連続して5~6週間にわたり、外来で行ないます)
乳房温存手術の適応は、
1. 3cm以下の腫瘍(良好な整容性が保てれば4cmまで)
2. 画像検査上、広範なひろがりがない
3. 複数の領域にわたって腫瘍が多発していない
(整容性を保ったうえで腫瘍をすべて完全に切除できる場合は適応となります)
4. 温存された乳房に対する放射線治療が可能
などです。
①放射線治療を行なう際に必要な姿勢を取れない場合
②妊娠中の場合
③これまでに手術した側の乳房、胸壁に放射線治療をうけたことがある場合
④ある種の膠原病の治療を受けておられる場合
などでは放射線治療を受けられません。
●胸筋温存乳房切除術
乳房温存手術の適応を満たさない場合に行われます。
通常は、腫瘍の周囲の皮膚を乳頭・乳輪とともに切除し、大胸筋・小胸筋をともに温存したAuchincloss法を行います。
●ラジオ波焼灼術
●センチネルリンパ節生検について
センチネルリンパ節とは、がんが最初に転移をきたすリンパ節です。
センチネルリンパ節を見つけだし、手術中に検査し、転移がないことを確認できれば、それ以外のリンパ節には転移がない可能性が高く、腋窩リンパ節の完全切除(郭清)を省略できます。それにより、腋窩リンパ節郭清後の後遺症(上肢のむくみ、腋の下のしびれ、上肢の運動制限など)を軽減することが可能になります。
当院では、センチネルリンパ節の同定に、色素だけでなく放射性同位元素も使用し精度の高いセンチネルリンパ節生検を実施しています。
●乳房再建について
乳房温存手術の適応を満たさないが、乳房を喪失したくないという希望がある場合には、形成外科と協力し、乳がん手術の時に同時に乳房再建を行っています。
筋肉・脂肪などの体の一部の組織を胸に移植する自家組織による再建と組織拡張器を用いた人工乳房による再建があります。
乳がんの手術後に期間をあけてからの再建も可能です。
いずれの場合も通常、保険診療で乳房再建を受けることができます。
薬物療法について
当科では、国内外の薬物療法のガイドラインに基づき、なおかつ個々の患者さんの状態、状況に応じた、最適な薬物療法を行うよう心がけております。
薬物療法には施行時期やその目的により以下のような種類があります。
1)化学療法
●手術前の化学療法(術前化学療法)
手術不能の局所進行乳がんに対して行う場合と、乳房温存手術の適応にならない大きな腫瘍に対して行い、治療効果が見られれば乳房温存手術を可能にする目的で行う場合があります。
* AC療法 (ドキソルビシン,シクロホスファミド)
* FEC療法 (5-FU,エピルビシン,シクロホスファミド)
* タキサン系薬剤 (パクリタキセル,ドセタキセル,アブラキサン)など
HER2陽性乳がんではトラスツズマブ、ペルツズマブを併用します。
●手術後の化学療法(術後補助化学療法)
再発を予防するために、手術後に行う化学療法です。
手術で切除した乳がん組織を顕微鏡で調べ、しこりの大きさ、リンパ節転移の個数、組織学的悪性度、ホルモン受容体の有無、HER2、細胞増殖マーカーなどを調べます。これにより再発のリスクや薬物療法の効果が期待できる程度(再発予防効果)がおおよそ判断でき、副作用などのデメリットも考慮し、どのような薬物療法を行うか決定します。
ホルモン受容体陽性HER2陰性乳癌ではOncotypeDxなどの多遺伝子アッセイを行って化学療法を省略できるかを判断する方法があります。
■当院で行っている主な術後化学療法は以下のものがあります。
* AC療法
* FEC療法
* TC療法 (ドセタキセル,シクロホスファミド)
* タキサン系薬剤
標準的な治療期間は3-6ヵ月です。
HER2陽性乳がんでは、 トラスツズマブ、 ペルツズマブの併用や
トラスツズマブ エムタンシンが投与されます。
●再発時の化学療法
* タキサン系薬剤
* エリブリン
* カペシタビン
* タキサン系薬剤
* FEC療法(5-FU、エピルビシン、シクロホスファミド、エピルビシン)
* CE療法 (シクロホスファミド、エピルビシン)
* ティーエスワン
* ゲムシタビン
* イリノテカン
* ビノレルビン
* CMF療法 (シクロホスファミド,メトトレキサート,5-FU)
これらの薬剤の併用など。
2)分子標的治療薬について
●「HER2陽性乳がんに対する抗HER2療法」
乳がん患者さんのうち、約30%の人のがん細胞の表面にはHER2タンパクと呼ばれる物質が存在します。* トラスツズマブ、* ペルツズマブ、* トラスツズマブ エムタンシン、* トラスツズマブ デルクステカン、* ラパチニブなどの分子標的治療薬は、HER2タンパクがかかわっているがん細胞の増殖を抑制します。これらの薬剤の効果があるかを判断するためには、手術や生検で採った乳がん組織を用いて、乳がん細胞がどれほどHER2タンパクを持っているかを調べる必要があります。
●化学療法と併用する分子標的治療薬
* ベバシズマブ
●内分泌療法と併用する分子標的治療薬
* パルボシクリブ *アベマシクリブ * エベロリムス * カピバセルチブ
●BRCA1/2 遺伝子に病的変異がある場合
* リムパーザ
* タラゾパリブ
●免疫チェックポイント阻害薬
* アテゾリズマブ * ペムブロリズマブ
手術前のトリプルネガティブ乳癌、転移・再発を来したトリプルネガティブ乳癌の一部に使用することができます。
全身にさまざまな副作用が起こる可能性があります。
そのため免疫療法は、副作用に十分に対応できる体制が整っている医療機関で受けることが大切です。
3)内分泌療法(ホルモン療法)について
乳がんの約60%はホルモン受容体(エストロゲンレセプター、プロゲステロンレセプター)を持っていて、ホルモン剤による治療が有効です。内分泌療法は化学療法に比べて副作用が少なく、生活の質を落とさずに治療ができます。
術後の再発予防目的あるいは再発時に使用します。
再発予防の場合の標準的な治療期間は5-10年間です。
内分泌療法には以下の薬が使われます。
●抗エストロゲン剤
乳がん細胞のエストロゲン受容体に作用して、がん細胞の増殖を抑えます。
* ノルバデックス * トレミフェン * フルベストラント
●LH-RHアゴニスト
閉経前の患者さんに使い、卵巣の機能を押さえて血液中の女性ホルモンの量を減らします。
* リュープロレリン * ゴセレリン
●アロマターゼ阻害薬
閉経後の患者さんに用い、閉経後の女性ホルモンの量をさらに少なくします。
* アナストロゾール、 * エキセメスタン、 * レトロゾール
●プロゲステロン製剤
プロゲステロン製剤を大量に投与することにより乳がん細胞の増殖を押さえます。
* メドロキシプロゲステロン
●エストロゲン
* エチニルエストラジオール
4) 骨転移に対して用いられる薬剤
骨転移による痛みや骨折のリスクを減らす目的で投与を行います。
* デノスマブ * ビスフォスフォネート製剤放射線治療について
●手術後の放射線照射
乳房温存手術の場合、術後に温存された乳房に放射線照射を行うのが標準的な治療法です。これによって、乳房内の再発を半分以下に抑えることができます。乳房切除後でも、再発リスクが高い場合には、胸壁や領域リンパ節に放射線照射を行います。●再発時の放射線照射
再発した部位(骨、リンパ節、軟部組織、脳など)に対して、痛みなどの症状をやわらげる目的で、放射線照射を行うことがあります。大阪府では、将来子どもを産み育てることを望む小児・思春期及び若年のがん等患者さんが希望をもってがん治療に取り組めるように、将来子どもを出産することができる可能性を温存するための妊よう性温存治療に要する費用の一部を助成しています。
乳がんに関するより詳しい情報を知りたい方のための情報サイト
●国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス」
https://ganjoho.jp/public/index.html
●日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2023年版」
https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/
最終更新日:2024年10月31日