膝関節
対象疾患
<膝関節>
膝前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靭帯、複合靭帯損傷
膝蓋骨脱臼、亜脱臼
半月板損傷
膝関節軟骨損傷、遊離体、骨壊死、離断性骨軟骨炎
十字靱帯剥離骨折,脛骨プラトー骨折,その他,膝周囲の外傷
初期変形性膝関節症に対する高位脛骨骨切り術
<足、足関節、下腿>
足関節靭帯損傷、足関節骨軟骨病変(離断性骨軟骨炎)
腓骨筋腱脱臼、インピンジメント症候群(三角骨障害)、第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)
手術実績
膝スポーツグループ(年) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
総手術件数 | 278 | 352 | 345 | 413 | 432 | 510 |
膝靭帯再建術(前十字靱帯など) | 78 | 84 | 68 | 92 | 96 | 90 |
膝半月板手術 | 57 | 78 | 88 | 94 | 104 | 141 |
膝周囲骨切術(高位脛骨骨切術など) | 52 | 63 | 51 | 63 | 64 | 93 |
その他の膝,足の手術(軟骨再生など) | 91 | 127 | 138 | 164 | 168 | 186 |
治療方針
<前十字靭帯損傷>
前十字靭帯はいったん損傷すると自然治癒する可能性は極めて低く、治療しないとスポーツの継続が困難になるだけではなく、将来、変形性膝関節症を発症するリスクが高くなります。自分の腱を移植して関節鏡下に前十字靭帯を再建する手術が一般的で確実な方法です。移植する自分の腱として当院では、患者さんのニーズに合わせハムストリング腱、骨付き膝蓋腱、あるいは大腿四頭筋腱を使用します。
手術は、本来の前十字靭帯の骨への付着部に骨孔(トンネル)を作成して、採取した腱を挿入し、チタン合金性の小さなボタンやプレート、スクリューを用いて移植腱を固定します。
半月板損傷や関節軟骨損傷を合併している場合には同時に半月や関節軟骨に対する処置も行います。半月損傷に対しては、可能な限り縫合術を行いますが、損傷程度が強くて縫合が不可能と判断した場合には切除術となります。
入院期間は約2〜4週間です。術翌日から車いすを用いて病棟内での移動は可能となり、手術後4週間後から通常歩行を行っていただきます。
<半月板損傷>
半月板とは?
膝関節の機能を維持するための大切な組織です。主な役割として、?膝の衝撃吸収(クッションとしての役割) ?膝の荷重分散(膝にかかる荷重を関節面全体に分散させる役割) ?膝の安定性(関節の安定には靭帯だけでなく半月坂も重要な役割を果たしています)などが知られています。
線維軟骨と言われる柔らかい組織で構成されており、スポーツ中の強い外傷で損傷する場合がありますが、加齢性の変化や使い過ぎなどによっても損傷することがあります。損傷の形態には 1)縦断裂 2)横断裂 3)水平断裂 3)変性断裂などがあります。治療方針は損傷形態により異なります。
治療方法
保存治療
保存的治療として、筋力トレーニング(特に大腿四頭筋)や装具治療、減量があります。これだけで半月機能を改善させることは不可能ですが、膝関節の安定化が得られれば疼痛は軽減する可能性があります。将来的に膝の痛みや引っかかり感が増悪するようなら手術が必要となります。
手術療法
損傷した半月板が自然に修復されることは稀です。保存治療に難渋する場合には手術療法が選択されます。いろいろな手術方法がありますが関節鏡を用いて損傷した半月板を1)縫合する 2)(部分)切除する 方法があります。当院では半月機能を温存することを目指して半月縫合を積極的に行っていますが、断裂形態によりその適応が制限されます。
1)半月板縫合
半月縫合術の場合、損傷した半月に糸をかけて縫い合わせます。断裂形態により縫合の方法は変わりますが、より確実で強固な固定が得られるように関節の中から関節の外にむけて半月板に糸をかけて縫合する方法を主に行っています。その場合、膝の横に約4cm程度の皮膚切開を行う必要があります。
縫合術を行った場合には術後2週間膝固定装具を装着します。その間は体重をかけることはできません。(松葉杖や車椅子を使用)損傷形態によっても異なりますが、概ね手術後4週間後より通常歩行を行っていただきます。
2)半月板(部分)切除術
半月が損傷してから時間が経っている場合、半月板が変性(質が悪くなる)していることがあります。このような半月板は治癒能力が極めて低いため縫合術を行っても治癒しない可能性が高く、術後に痛みや引っかかり感が出現することがあります。このような場合、半月切除が第一選択となります。半月部分切除または全切除を行った場合には、翌日より歩行訓練を開始します。歩行が安定すれば退院は可能です。入院期間は3日程度です。
<膝蓋骨脱臼> 膝蓋骨脱臼とは? 膝蓋骨(おさらの骨)が大腿骨からはずれる(脱臼)ことを膝蓋骨脱臼と言います。脱臼する頻度は人によって異なります。脱臼しやすい原因(骨の形態異常など)がたくさんある人は不安感が強く普段の生活でも脱臼することがあります。脱臼を繰り返すと膝の軟骨が損傷していき、将来的に機能障害を起こします。比較的まれな疾患ですが、当院では専門的に治療を行っています。
脱臼の原因 膝蓋骨の脱臼素因として靭帯損傷や膝関節の形態異常、関節弛緩性(関節のやらかさ)などがあります。様々な脱臼素因の中でも内側膝蓋大腿靭帯(ないそく しつがい だいたいじんたい; MPFL)の損傷が注目されています。この靭帯はいったん膝蓋骨が脱臼すると断裂してしまい、完全に修復されることはありません。膝蓋骨の内側と大腿骨の内側とをつなぐ靭帯で、膝蓋骨が外側に脱臼するのを防いでいます。
治療方法 保存治療 装具を用いた保存治療で膝蓋骨の不安定性を確実に抑制することは困難であり、スポーツの継続は勧められません。保存治療による再脱臼の頻度は約40~60%と言われています。脱臼素因が少ない方には比較的有効な方法です。
手術治療
再脱臼予防および不安感の改善には最も確実な治療法です。様々な手術方法がありますが、当科では自分の腱を移植して損傷した内側膝蓋大腿靭帯を再建(もう一度作り直すこと)する方法を第一選択としており良好な成績をあげています。
再建方法は、本来の内側膝蓋大腿靭帯の骨への付着部に骨孔(トンネル)を作成して、移植腱を挿入します。移植する腱は内側ハムストリング腱(主に半腱様筋腱)を使用しますが、採取による筋力低下などの合併症はほとんど認めません。移植腱の固定にはチタン合金性の小さなボタンを用います。
膝蓋骨脱臼は高い頻度で関節軟骨損傷を合併しており、時には骨折を伴っていることがあります。これらは膝関節を保護する大事な役割がありますので同時に治療を行う必要があります。骨折に対しては骨片が小さい場合には摘出を、大きい場合には骨接合術を行います。骨の形態異常が強い患者さんには、骨を矯正する手術を追加することがあります。
<手術後の大まかな流れ>
怪我の状態や種類によってかわりますが、おおむね当院での入院期間は2〜4週間です。術直後から2週間膝装具(ニーブレース)を用いて膝関節を固定しますが、術翌日から車いすまたは松葉杖を用いて病棟内での移動は可能となります。膝周囲の筋力を強化する訓練なども開始します。インプラントの抜去や半月切除術などでは,入院は3,4日です.
おおよその術後リハビリの経過(疾患や損傷の程度により異なります。)
手術後1~2週 装具による膝の固定
1,2週~ 膝の曲げ伸ばしの訓練開始
3,4週~ 通常歩行開始
3カ月~ ジョギング
5カ月~ ランニング
6カ月~ スポーツ活動再開
8カ月~ 試合への復帰
関連業績
・山田裕三ほか:再建前十字靱帯の張力下固定法の検討(膝 2002)
・山田裕三ほか:反復性膝蓋骨脱臼に対する自家半腱様筋腱を用いたbi-socket内側膝蓋大腿靱帯再建術(膝 2003)
・北圭介ほか:進行期肘離断性骨軟骨炎に対する生体吸収性ピンを用いた骨軟骨片固定術(臨床整形外科 2004)
・北圭介ほか:スノーボードによる膝外側半月板損傷(臨床整形外科 2005)
・北圭介ほか:有痛性三角骨障害に対する鏡視下摘出術(関節鏡 2005)
・山田裕三ほか:円板状半月損傷に対する半月温存手術(スポーツ傷害 2006)
・Yamada Y. et al.: Morphological analysis of the femoral trochlea in patients with recurrent dislocation of the patella using three-dimensional computer models. (J Bone Joint Surg Br. 2007)
・Yamada Y. et al.: In vivo movement analysis of the patella using a three-dimensional computer model. (J Bone Joint Surg Br. 2007)
・山田裕三ほか:円板状半月損傷に対する半月縫合温存手術の術後短期成績と適応(関節鏡 2007)
・Kita K. et al.: PI3K/Akt signaling as a key regulatory pathway for chondrocyte terminal differentiation.(Genes Cells. 2008)
・北圭介ほか:早期復帰を目指したリスフラン靱帯損傷の治療方法の検討 手術治療v.s.保存治療(スポーツ傷害 2011)
・北圭介ほか:MPFL再建術々後の膝蓋大腿関節面軟骨の再鏡視所見(JOSKAS 2012)
・北圭介ほか:【膝蓋骨脱臼の評価と治療】半腱様筋腱を用いた解剖学的MPFL再建術(関節外科 2012)
・Kita K. et al.: Effects of medial patellofemoral ligament reconstruction on patellar tracking. (Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2012)
・Kita K. et al.: Patellofemoral chondral status after medial patellofemoral ligament reconstruction using second-look arthroscopy in patients with recurrent patellar dislocation. (J Orthop Sci. 2014)
・北圭介ほか:ダウン症に合併した恒久性膝蓋骨脱臼に対し内側膝蓋大腿靭帯再建術を施行した1例(関西関節鏡・膝研究会誌 2014)
・北圭介ほか:習慣性膝蓋骨脱臼に対し外顆形成術、外側支帯解離術および脛骨粗面内方移動施行後20年経過した1例(中部整災誌 2014)
・北圭介ほか:【ワンランク上のケアを目指すナースのための膝の靱帯損傷の治療と看護】膝の靱帯損傷とは(整形外科看護 2014)
・山田裕三ほか:【ニガテ意識を克服!画像に親しむ整形外科ナースになろう】 膝関節疾患の画像の見かた(整形外科看護 2014)
・Kita K. et al.: Factors Affecting the Outcome of Double-Bundle MPFL Reconstruction for Recurrent Patellar Dislocation Evaluated by Multivariable Analysis. (Am J Sports Med. 2015)
・北圭介ほか:習慣性膝蓋骨脱臼に対する単独内側膝蓋大腿靱帯再建術の成績(JOSKAS 2015)
・北圭介ほか:明らかな脱臼歴のない大腿骨滑車部外側の軟骨損傷の1例(関西関節鏡・膝研究会誌 2015)
・北圭介ほか:反復性膝蓋骨脱臼に対するMPFL再建術の術後成績 脱臼素因と術後成績の関連(JOSKAS 2015)
・山田裕三ほか:早期全荷重歩行を施行したOpening-wedge HTOの関節軟骨の再鏡視評価(JOSKAS 2015)
・北圭介ほか:多変量解析による内側膝蓋大腿靱帯再建術の術後成績に影響を与える因子の検討(JOSKAS 2016)
・北圭介ほか:3DCTを用いた内側膝蓋大腿靱帯再建術における大腿骨側骨孔拡大の検討(JOSKAS 2016)
・北圭介ほか:【スポーツ整形外科 最新の治療】膝 ハムストリング腱を用いた解剖学的MPFL再建術(整形・災害外科 2016)
・岡本元祐ほか:骨切り部外側皮質骨骨折を合併したMedial opening-wedge HTOの術後早期臨床経過(JOSKAS 2016)
・北圭介ほか:内側膝蓋大腿靱帯再建術における大腿骨側骨孔変化と臨床成績(JOSKAS 2017)
・山田裕三ほか:【ナースが本当に聞いてみたかった 整形外科看護エビデンス179】 (Chapter 7)膝関節 術後管理・看護(整形外科看護 2017)
・Kita K. et al.: 3D Computed Tomography Evaluation of Morphological Changes in the Femoral Tunnel After Medial Patellofemoral Ligament Reconstruction With Hamstring Tendon Graft for Recurrent Patellar Dislocation. (Am J Sports Med. 2017)
・北圭介ほか:半腱様筋腱を用いた膝靱帯再建術における大腿骨側骨孔拡大 関節内靱帯(ACL)と関節外靱帯(MPFL)再建術の比較(JOSKAS 2018)
・北圭介ほか:内側膝蓋大腿靱帯再建術におけるアイソメトリックポジショナーを用いた大腿骨側骨孔作成方法と作成位置の検討(JOSKAS 2019)
・北圭介:【膝蓋骨脱臼 これで不安なし!膝蓋骨不安定症対策】手術治療 反復性膝蓋骨脱臼に対するMPFL再建術(整形外科Surgical Technique 2020)
最終更新日:2024年04月03日