膵がんの診断・治療について
膵がんの症状・診断について
膵臓は、胃の裏側にあり、みぞおちから左上腹部にかけて位置している細長い臓器になります。膵腫瘍は、膵管癌、膵腺房細胞癌、膵神経内分泌腫瘍などに分類されますが、90%以上は膵管癌であり、一般的には膵癌はこの膵管癌のことをいいます。膵癌の症状としては、腹痛・背部痛、体重減少、胆管閉塞合併による黄疸などがあります。
膵癌が疑われる患者さんに対しては、造影CT、MRI、超音波内視鏡検査(EUS/EUS-FNA)、内視鏡的逆行性膵管胆管造影検査(ERCP)などの検査を行い、確定診断となります。症状を伴う膵癌は診断時にはかなり進行した状態であることも多く、当院では症状の伴わない段階での早期膵癌の診断を目指した取り組みもしています。
膵癌の病期(ステージ)と切除可能性分類について
腫瘍の病期(ステージ)、切除可能性分類、患者さんのご年齢や体力、治療希望の有無などによって、膵癌の治療方針を判断します。病期は、腫瘍の大きさや主要血管への浸潤の有無、リンパ節や他臓器への転移の有無などにより決定されます。また切除可能性分類は、①標準手術により癌が取り切れる(切除可能)、②標準手術のみでは癌を取り切れずに一部を残ってしまう可能性がある(切除可能境界)、③主要血管へ広範囲に浸潤していたり、他臓器への転移をしていたりするため取り切ることができない(切除不能)に分類されます。
手術(外科的治療)
手術が唯一の根治的治療となります。近年の臨床試験では、手術前に化学療法を行うことで、術後の再発を抑制し予後が改善できたとの報告がなされています。術前化学療法中に腫瘍が増大し手術ができなくなる懸念もありますが、化学療法を行うメリットの方が大きいと考えられ、原則は切除可能病変であっても化学療法を行い手術加療としています。
化学療法
抗がん剤を用いて癌の増殖を抑える治療になります。膵癌に対して使用できる薬剤はまだ少ないですが、FOLFIRINOX、GnP(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル)、nal-IRI(オニバイド)/5FU/LV、S-1など、以前と比較すると効果があるとされている薬剤の種類は増えてきています。副作用の強い薬剤もあり、年齢や体力などをふまえて使用する薬剤や投与量を判断います。近年は、膵癌から採取した組織や患者さんの血液中の腫瘍成分の遺伝子異常を詳しく調べる遺伝子検査の有用性も報告されており、治療対象となる遺伝子異常を認めれば免疫チェックポイント阻害剤などの薬剤の使用が可能となります。現在の保険診療下においては、遺伝子検査は「標準治療が終了後あるいは終了見込みの患者さん」が対象となり、検査結果がでるまで1か月半~2か月ぐらいの時間がかかることから、患者さんの体力や腫瘍の進行状態をみて検査の適応を判断しています。当院ではこうした遺伝子検査はできないため、他院へ紹介して検査を受けていただいています。
化学療法の進歩により、局所進行で切除不能膵癌と判断された症例でも、化学療法や放射線療法を行うことで病変が縮小し手術が可能となるConversion Surgery症例もでてきています。
放射線療法
放射線を癌にあてることで癌を死滅させる治療です。膵癌に対して放射線療法単独での効果は乏しいため、化学療法との併用(化学放射線療法)で行っています。2022年4月に高い線量をあてることのできる粒子線治療も保険適応となり、手術を希望されない際や局所進行で手術適応のない症例には粒子線治療を行うこともあります。当院では粒子線治療はできないため、専門の施設へ紹介の上で適応の有無を判断していただくことになります。
また、骨転移に対して疼痛軽減目的や骨折予防目的に放射線治療を行うこともあります。
当院で集学的治療を行った症例
膵頭部癌cT4N0M0 cStageIIIと診断しました。主要血管への浸潤があり切除可能境界と判断しました。化学療法での治療を行いましたが、血管浸潤の改善を認めなかったため、放射線療法の併用も行い、腫瘍の縮小・血管浸潤の改善を認めました。手術加療を行い、組織学的根治切除(R0切除)が可能でした。このように様々な治療を組み合わせ、膵癌への治療を行っています。
胆道ステント
肝臓で作られた胆汁が流れる胆管は、一部で膵臓内を通っています。膵癌により胆管の狭窄をきたすと、胆汁の流れが悪くなり黄疸が出現します。内視鏡を用いて胆管狭窄部に対してプラスチック性や金属性の胆管ステントを留置し、胆汁の流れを改善させることで黄疸の改善を図ります。
消化管ステント・バイパス療法
膵癌が増大すると胃や十二指腸の狭窄をきたして、食べたものが通過しなくなることがあります。この消化管狭窄に対して、経口内視鏡下に金属製の消化管ステントを留置したり、外科的に胃と空腸にバイパスを作成し狭窄部を通らない別の経路を作成したりすることで、通過障害の改善を図ります。消化管ステントの留置は体への負担が少ないですが、腫瘍の進行によりステント内に再度通過障害をきたす可能性があります。胃空腸バイパス術は一時的に体への負担は大きいですが、再び通過障害をきたす可能性は低いとされています。患者さんの体力や癌の進行状態などをふまえて、どちらがよいか判断しています。
緩和療法
癌と診断された患者さんは、身体的や精神的な苦痛や不安をかかえておられます。また患者さんの家族も精神的な苦痛をかかえておられます。様々な苦痛や不安に対して、癌と診断した早期より多職種の介入による心理的ケア、オピオイドを含む鎮痛剤の導入などにより苦痛の軽減を行います。
当院では消化器内科、外科、放射線科が集まって治療方針を決定するカンファレンスを毎週行っており、適宜複数の医師で患者さんの治療方針について検討をしております。また、医師、看護師、薬剤師、医療ソ-シャルワーカー、栄養士などが連携し、患者さんが安心して過ごせるようにサポートしています。近隣の患者さんが遠方のハイボリュームセンターまで通院しなくとも、当院で最善で最新の診療をできる限り受けられるように取り組んでいます。
最終更新日:2023年11月05日