ワクチンについて

　予防接種はあまり目立ちませんが、感染症を制御するうえで最も効果が高く、コストパフォーマンスに優れた医療技術と考えられています。天然痘をはじめ、破傷風、狂犬病、ジフテリア、麻疹、ポリオなど、かつては人類にとって大きな脅威だった感染症の多くが、予防接種により根絶されたり極めて稀なものになっています。予防接種がこの世に存在しなければ、皆さま自身やご両親・祖父母などがこういった恐ろしい感染症で命を落とし、あなたがこのHPを目にすることはなかったかもしれません。現代を生きる人類の多くが様々なワクチン接種を受け、気が付かないうちに多大な恩恵を受けているのです。

　しかし、手術や薬の投与で病気から回復した場合は、人は治療に対して大いに感謝するものですが、予防接種のおかげで感染症に罹らなかったり軽症で済んでも、本人はあまりその効果を実感できず有難味を感じにくいです。予防接種は「目立たないけど良い仕事をしている」縁の下の力持ちのような存在なのかもしれません。

　医療技術の発達とともに、ステロイドや免疫抑制剤を使用したり、癌と闘病するなど、成人においても免疫力の低下により予防接種の恩恵を受ける患者様が増えてきています。また、海外に渡航すると日本では見られないような感染症に罹ることがありますので、渡航地域や渡航期間、渡航先での活動内容により、事前に予防接種を打っていくことが推奨される感染症がありますし、黄熱病のように国によっては渡航にあたって予防接種が必要な感染症も存在します。

　ワクチン・渡航外来では、主に成人の免疫不全者や海外渡航者を対象とした予防接種を行ったり、高山病やマラリアの予防薬の処方、海外渡航時や留学時の抗体検査・予防接種証明書、診断書作成などの業務を行っています。

渡航外来とは？

　新型コロナウイルスの流行により一時的に海外渡航は難しいものになっていましたが、社会がWith コロナに移行するに従い、コロナ禍以前のように海外との人の行き来が活発になってきています。
海外では日本国内には存在しないような感染症にかかることがあります。現地で病気になった場合、慣れない言葉で医療を受けるのは大変ですし、日本のような手厚い保険が受けられず医療費が極めて高額になることもあります。途上国では受けられる医療水準が低い場合も多く、薬品の温度管理が不適切だったり消費期限が切れていたりして期待される効果が得られなかったり、外国人と見るや騙す目的で薬と称してインチキな治療が行われるなど、日本では想定外な事態にさらされるリスクも無視できません。現地で医療を受けざるおえなくなるリスクをできるだけ減らすためにも、出発前に渡航先の医療事情を知り、適切な予防接種を受けておくのが自分の身を守るためにも重要となります。

こうした渡航時の医療問題に対応するため、1980年代頃から欧米を中心に渡航者向けの医療相談を行うクリニックが現れ、近年では海外渡航者の半数ほどが出発前に渡航外来を受診していると報告されています。日本ではこのような形での渡航外来はあまり馴染みがなく、上記報告では海外渡航前に渡航外来を受診する日本人は2％程度だったというデータもあり、現地の医療従事者から「日本人には渡航前の予防接種を受けてくる者が少ない」と苦言を呈されることもあったようです。それでも近年は都市部を中心に、渡航者向けの医療サービスを行う医療機関が増えてきました。

　渡航外来の目的はワクチン接種だけではありません。受診者の渡航目的や期間、現地での活動内容に合わせた健康上～海外医療事情に関する情報提供も重要な業務の一つですし、ワクチンで予防できないマラリアや高山病には予防薬の処方を行います。また、海外での就職や留学では現地から健康診断書や予防接種証明などを要求されることがありますので、英文での健康診断書、予防接種証明書の作成も行っています。

海外渡航向けのワクチンには複数回接種しなければならないものもあり、完全な免疫状態を達成するのに半年かかることもあります。よって、渡航時期が予め分かっている場合は、初めて渡航外来を利用される場合は半年ほど前、遅くとも1ヶ月以上前には受診して、予防接種計画を練ることをお奨めいたします。

患者様個人の予防接種歴の一覧表を日本語・英語で作成いたします（無料）

初診時に予防接種記録を確認させていただいた後は、当院で患者様個人の予防接種歴の一覧表を作成し、患者様にメールで送らせていただきます。これまでのワクチン接種歴をまとめ、次回接種すべきワクチンがどれかや接種すべき日付の目安、現在接種しているワクチンの有効な期間がいつ頃までかなどの情報を、日本語と英語で記載したものになります。スマホなどに保存し、渡航先などで予防接種歴について聞かれたらすぐに見せることができるようにしておきましょう。