独立行政法人 地域医療機能推進機構 大阪病院

特殊外来

予防接種の基本原則と注意

ワクチンの安全性

 ワクチン接種後に現れる注射した部分の痛みや発熱、倦怠感、頭痛、筋肉・関節痛などの症状を副反応といい、通常は接種の翌日をピークに数日以内に回復することがほとんどです。ワクチンは年々安全性の高いものへと改良が続けられており、昔に使用されていた製剤と比較すると安全性は飛躍的に高まってきています。

 接種後に注意が必要なのは、アナフィラキシーという重症なアレルギー反応で、多くは接種から数分~30分くらいの間に起きます。初めてのワクチンを接種する場合にアナフィラキシーが起きるかどうかを予測することはできませんので、ワクチン接種時には常にアナフィラキシーに備えて、治療薬を準備し緊急の対応が取れる体制を整えています。また、注射による痛みなどを契機に失神(迷走神経反射)して倒れてしまうことがありますので、ワクチン接種時には背もたれのある椅子を使用するなどして転倒に備えています。

ワクチン接種後のアナフィラキシーについて

アナフィラキシーの症状は、かゆみや蕁麻疹などの皮膚症状、呼吸困難感や咳、喘鳴などの呼吸器症状、動悸や失神、低血圧などの心血管症状、腹痛や下痢などの消化器症状と、非常に多彩です。ワクチン・渡航外来ではワクチン接種時には常にアナフィラキシーに備えて治療薬を常備しており、アナフィラキシー発生時は総合病院という特性を活かして速やかに救急外来に移動して治療を行い、症状の悪化に備えて入院の上で経過観察することができる体制を整えています。

ワクチンに対するアナフィラキシーは極めて稀で、ワクチンの種類によっても差がありますが、一般的には100万接種あたり1件程度と報告されています。

J Allergy Clin Immunol. 2016 Mar; 137(3): 868–878

また、日本アレルギー学会のアナフィラキシーガイドラインによると

➤アナフィラキシーガイドライン2022

日本アレルギー学会認定施設での調査で、2015年~2017年の2年間で767人のアナフィラキシーが報告され、牛乳:112件、卵:103件、ハチ刺傷:21件、エビ・イカ:17件、抗菌薬:14件、NSAIDs(鎮痛剤):14件、輸血製剤:3件、ワクチン:2件が報告されています。ちなみに、この調査ではアナフィラキシーによる死亡は2年で12件と報告されており、造影剤4件、抗菌薬4件、筋弛緩薬2件、その他の薬剤2件で、ワクチンによるアナフィラキシーでの死亡はありません。

米国のワクチン有害事象報告システム (VAERS)によると、1990年~2016年の26年間で、ワクチン接種に対するアナフィラキシーによって引き起こされた可能性のある死亡者は8人です。

J Allergy Clin Immunol. 2019 Apr;143(4):1465-1473

以上のデータから、ワクチンが他の食品や薬剤と比較して特別にアナフィラキシーを起こしやすいというわけではなく、死亡する例も極めて稀ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。参考に、ワクチンによるアナフィラキシーがどのくらい稀なのかについて、我々に起こりうる様々な稀な現象との比較をお載せします。


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交通事故による死亡(日本:2018年) 国民3万3千人に1人 (年間約3500人)

自然災害(台風、洪水、地震など)による死亡(日本) 国民10万人に1人(年間1000人)

航空機事故で死亡 20万フライトで1人 (世界:年間約7000万フライトで300人前後)

オリンピックの日本代表選手になる 国民40万人に1人 (300人/4年)

雷に打たれる 77万~100万分の1 (米国:人口3.3億人で年間平均300件)

ワクチンでアナフィラキシー 約100万回に1回
宝くじで1億円以上当たる 約500万枚に1枚

ノーベル賞を受賞 生涯で1000万人に1人

アナフィラキシーを起こした場合、死亡する確率:約50人に1人

未承認(輸入)ワクチンについて

 海外渡航者に対して推奨されているワクチンの中には、日本で承認されていないワクチンがあります。また、日本で使用されている製剤よりも効果や信頼性が高い製剤が存在する場合は、輸入ワクチンの使用をお薦めすることもあります。当院で取り扱っている輸入ワクチンは全て欧米先進国で安全性・有効性の評価がなされ、多くの国で承認・流通しているワクチンです。

 ただし、輸入ワクチンは健康被害が生じた場合の国の救済制度は適応されません。そのため、輸入ワクチンにより健康被害が生じた場合は、ワクチンの輸入業者が加入している健康被害者救済制度により補償が行われます。

健康被害時の補償

 予防接種には、定期接種(予防接種法に基づき市町村長の責任で実施)と任意接種(定期接種以外に希望して接種する場合)があります。ワクチン・渡航外来でのワクチン接種は任意接種であり、予防接種費用や抗体検査費用などは保険診療ではなく自費診療となります。万一健康被害が生じた場合、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構による救済制度の対象となります。

 なお、輸入ワクチンはこれらの救済制度の対象にはなりませんが、ワクチンの輸入業者が加入している保険により一定の保証を受けることができます。ただし、医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構による救済制度ほど補償の内容は手厚くはありません。

ワクチンの禁忌

 生ワクチンは、その病原体を弱らせたものを接種するため、免疫力が低下した方が接種するとその病気を発症することがあり禁忌となります。生ワクチンが禁忌になるのは、妊婦、ステロイドや免疫抑制剤使用者、未治療のHIV患者、原発性免疫不全などがあります。

 不活化ワクチンは、その病原体に似せた物質を投与するだけなので、接種することでその病気にかかることはありません。

 他のワクチン接種の禁忌は、過去にそのワクチンを接種して重度のアレルギーを起こした場合です。

ワクチンの同時接種について

 複数のワクチンを同時に接種することを同時接種といいます。何度も針を刺すのは痛いので、1回の接種で複数の病気が予防できる混合ワクチンも開発されています。同時に接種する本数に上限はありませんが、常識的に考えると5~6本くらいまででしょうか。

 同時接種する場合と1本ずつ接種する場合では、一部のワクチンの組み合わせを除き有効性や副反応の頻度・程度に差はないと報告されています。つまり、同時接種によってワクチンの効果が低下したり副反応が出やすくなったりすることはないようです。

ワクチンの接種間隔について

 複数回の接種が必要なワクチンでは、接種間隔はワクチンごとに定められており、推奨される間隔が守られなかった場合は、期待される有効性が得られなくなる可能性があります。よほどの理由がなければ、決められた接種間隔を守ることが望ましいです。

なお、生ワクチンを接種後は、他の生ワクチンを接種するのに1ヶ月間間隔を開ける必要があります。ただし、同時に複数の生ワクチンを接種すること(同時接種)は問題ありません。なお、かつては不活化ワクチンは接種間隔を1週間開けるという日本独特のルールがありましたが、現在は撤廃されており、不活化ワクチン同士や生ワクチンと不活化ワクチン接種の間で間隔を開ける必要はなくなりました。

予防接種証明

 初診でワクチン・渡航外来を受診する場合、母子健康手帳や過去の予防接種を証明するもの(特に海外出生者)などを持参して下さい。必要なワクチンは何かを判断したり、不必要なワクチン接種を避けるために非常に重要です。

 特に医療従事者は、入職にあたって過去のワクチン接種歴に従って勤務が始まるまでにワクチン接種を済ませておくことを定める医療機関もありますし、海外の大学に留学する場合は予防接種を完遂していないと入学を認められない国もあります。予防接種記録は確実に保管し、必要な時に提示できるようにしておきましょう。

最終更新日:2024年04月15日

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